ルイスポールセン勉強会レポート

2024年11月8日

1874年に創業、今年で150周年を迎えるルイスポールセン(Louis Poulsen)。
形態は機能に従う、というスカンジナビア・デザインの伝統にもとづく製品づくりを実践しています。ルイスポールセンの製品の機能とデザインはどれも、自然の光のリズムを反映し、サポートするよう意図されています。製品のすべてのディテールが目的を持っており、デザインのすべては光に始まり、光に終わります。

今回は、先日ルイスポールセン東京で開催いただいた勉強会のレポートをお伝えしたいと思います。

ルイスポールセンのはじまり

美しいデザインと唯一無二の光の質をもつ世界的な照明ブランド「ルイスポールセン」の照明器具、インテリアショップなどで一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
意外にも創業から照明機器メーカーであったわけではなく、まだ電気というものが世の中に使われていなかった1874年ワインの輸入会社としてスタートし、1890年代になりデンマークでも電気発電所が稼働し始めた頃、ワインの輸入会社を止め、スイッチやソケット等の電気の部材を卸す会社を経て、1920年代半ばに今の照明機器メーカーとしての歴史がスタートしました。

ルイスポールセンの本社は1906年から2006年に移転するまでの100年の間ニューハウンを拠点とし、現在はコペンハーゲン市内に本社ショールームを構え、デザインと光の質を追求した照明を作り続けています。
日本では、1990年にルイスポールセンジャパンを設立、1998年に東京六本木にショールームを移転、そして2023年には世界で初めてとなる直営店「ルイスポールセン東京」が青山に誕生しました。

ルイスポールセンの光を形作るデザイン PHランプの誕生

デンマークの建築家、後に‘近代照明の父’と呼ばれるようになるポール・へニングセン。建物以外にも家具や楽器などもデザインしており、中でも照明に一番時間をとって情熱を費やしたと言われています。彼は、ある照明のアイデアをもって、いろんな会社を訪ね歩いていましたが、なかなか賛同してくれる人が現れず、ようやく出会えたのがルイスポールセン。当時の経営者と意気投合し、これからは良質な光を放つ照明器具を開発していこうと、協業が始まりました。

へニングセンの大切にしたこと

・‘良い照明’の第一条件「グレアフリー」であること
オイルランプやキャンドルであかりをとっていた時代から電気に移り変わっていく1920年代、ランプ売り場には、透明ガラスの電球や器具も眩しい電球は覆い隠され、形としては簡単なシェード(傘)を取り付けたようなものがほとんどでした。
それをもっと論理的に、眩しくなく効率の良い美しいデザインを目指して、へニングセンは考え続けました。

・見たいものが一番明るく見えるのが ‘良い照明’
今、視界に映っているものの中で一番明るく見える場所が、人の目に最初に飛び込んでくるものです。一番明るさが強いところが目に入るので、見たいものが一番明るくなる状態を作ってあげることが、とても重要だとへニングセンは当時から考え、説明し続けました。

3枚シェードのPHランプ

明るさの差が強いと眩しいと感じることから、シェードなどのデザインの力を使って、一番明るいところと一番暗いところの中間の明るさを作ってあげれば、眩しさを軽減できるだろうという事で出来上がったのが、3枚シェードのPHランプ。1926年(大正16年)からずっと現在まで100年近く作り続けられています。
ポール・へニングセン( Poul Henningsen )のイニシャルがとられ、PHランプ (ピーエイチランプ)と名付けられています。

もう少し魅力を深掘り!
必要なところに多く光を届けるためにへニングセンは、シェード部分の乳白ガラスに光をどのようにあてるかによって光の反射の仕方が変わる事に目をつけ、全ての光を透過する量よりも反射する量が多くなるように斜めにあてればよいと考えました。そして、たどり着いたのが「対数螺旋曲線」です。
楕円や放物線など他の色々な曲線では、あたった場所によって反射する角度が異なってしまいますが、対数螺旋曲線だけは、どこにあたっても同じ角度で反射し、光をコントロールするのに理想的であったことから、PHランプのシェードには全ての面に光が37度で入って、37度で出るという法則をもった対数螺旋曲線が用いられています。
自然界に存在する対数螺旋曲線で代表的なものはオウムガイ。渦巻きを描く曲線です。

また、PHランプは取り付けるランプによって光源の位置が多少違っていたりしても、眩しくならないようにシェードの位置を上下させ、ランプとの位置関係を調整できるような構造になっています。ランプを取り付けても眩しく感じる場合には、調整してみてください。

へニングセンの逆襲から生まれたPH5

白いガラスの電球、蛍光灯なども誕生した1958年。透明ガラスのフィラメントの強く光る部分を隠すことでグレアフリーを進めてきましたが、面で光る電球が誕生したことで3枚シェードだけではグレアが隠せなくなってしまったことから生まれたのが、世界中にファンを持つPH5。

へニングセンがグレアフリー、光を効率的に届けることの他に試みていた「色の補正」。
「PH5 クラシック・ホワイト」には、シェードを外すと赤色、パーツにはブルーの色が塗られています。人の目には、比視感度と呼ばれる黄色や緑の光を強く感じる性質があり、赤や青を加えることで色のバランスを整えて、肌の色や料理の色をより美しく見せようという思いも込められ、当時着色が施されました。また、黄昏時の夜の澄んだブルーと夕焼けの暖かい光が交わったような美しい光を再現しようとされました。
現代は、LEDランプが主流になり、白熱電球を使うことがなくなってきたことから、色補正という役割はなくなっていますが、クラシック・ホワイトという色味だけは当時の着色が残されています。

テーブルから60cm上に吊るのがおすすめ

ルイスポールセンの器具は、テーブルの天板の上から60cm上に器具の下端がくる高さに設置するのをおすすめしています。
PH5などメタルシェードの器具は、シェードが発光しないので、商品を検討時に暗く感じるのではないかと思われる方がいらっしゃるのですが、そんなことはありません。

テーブルの天板の上から60cm上に器具の下端がくる高さに設置し、照度計でテーブル面を測ると、ランプだけの状態より1.4倍ほど明るくなります。
実際に食事するときに必要な照度は300~500 lx (ルクス) 、読み書きするのに必要な照度は500~750 lx (ルクス) と言われているので、読書や勉強も可能な明るさになります。

光で心地よい空間をつくるためのヒント

1.「光の広がり方」を考えて器具を選ぶ
下向きの光で作業をするなど、何か目的をもってここを照らしたいという場所に適した「タスクライト」、周辺に明るさを広げる「アンビエントライト」、その両方の機能を持った光の広がり方をする「タスクアンドアンビエントライト」。素材や形で空間の照らされ方が変わるので、目的に合った配光(光の広がり方)の器具を選ぶことが大切です。

2. 異なる光の広がり方をする器具を組み合わせて考える
光にメリハリがあり、スポット的に照らされている場所を作るとそこに人の居場所が生まれます。ただ、スポット的な明るさだけが点在している空間は部屋の明るさ感が不足するため少し閉塞感のある空間に感じることもあります。そのような場合には、アンビエントライトで天井や壁に明るさを与えてあげるなど、異なる光の広がり方をする器具を組み合わせて全体のバランスをとることが大切です。

3. 食卓のペンダントランプは低く吊るす
ルイスポールセンのほとんどの器具は、先述した通りテーブルの天板の上から60cm上に器具の下端がくる高さに設置するのをおすすめしています。例外としては、とても大きくボリュームのある器具は、視線から外すために80cm、もしくはそれ以上に上げた方がよい場合もあります。

4. スポットライトは人に向けない
スポットライトは光の広がりの狭いシャープな光を持っていることが多いです。その光が人に直接あたった場合、影が強く出すぎてしまい、表情に不要な影を作ってしまうことがあるので、取付場所、照らす場所には注意が必要です。

5. 間接光だけで空間を照らさない
スポットライトのシャープで影を作りやすい光とは逆に、間接光は影のできにくい光です。それだけで空間を照らしてしまうとぼんやりとした印象を与えやすいです。

光には影がつきものです。間接光がお好きな方も間接光だけで照明を完成させるのではなく、家具の配置に合わせてタスクライトとしてのペンダントランプやフロアランプを組み合わせることで、快適な空間に近づきます。

6. ‘2つの光が空間をつくる’ byアルフレッド・ホーマン
ルイスポールセンの器具もデザインしているデンマークの建築家アルフレッド・ホーマン。彼が教えてくれた ‘2つの光が空間をつくる’ という言葉があります。
目の前にキャンドルが1本だけ光っているとその場所だけが明るいとなりますが、それが2本あり、その2本が離れれば離れるほど、視線が左右に移動し、そこに空間というものが生まれて、空間の広がり感というものを感じられるようになります。

7. 複数の器具を機能的に配置
部屋を照明1つで全てをまかなおうとすると、部屋がのっぺりとした印象になります。そういう部屋にテーブルランプやフロアランプなど、光の広がりの違う器具を足すと魅力的な空間に変化していきます。 「手元の明かりと視線の先の明かり」
人の近くに明るさがあり、手元が明るいと意識がそこに集中しやすくなります。そして、視線の先に明かりがあるとそこまでの空間の伸びやかさを感じるので、部屋を広く感じさせたり、壁に光があたっていると明るさ感も感じることに繋がります。

150周年目のルイスポールセン

ルイスポールセンは長年にわたり、単にランプをデザインするだけではなく、屋内そして屋外で人々が心地よいと感じる雰囲気を生み出す光をかたちづくってきました。機能美を備えたルイスポールセンの製品は、どのようなスタイルの空間とも調和を保ち、魅力的で優しい光を発します。

今年150周年のアニバーサリーイヤーを迎えたルイスポールセン。ショールームやブランドホームページでその軌跡を辿ることができます。アニバーサリーコレクションも登場していますので、是非ご覧ください。

マンションをご購入された方に「既にダウンライトがお部屋に取り付いてしまっていて、どうしようもないんです」とご相談された際に、「テーブルランプやフロアランプを置くことで、いつでも全ての照明をつけなくても大丈夫ですよ」とお話された時のことを話してくださいました。
機能的でありながら、デザイン性にも富んだ器具をもちながらも、その時代や目の前にいるお客さんの想いや暮らしに寄り添ったご提案を続けていることが、ルイスポールセンの魅力を更に引き立てているのだと感じました。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
私たちと照明を楽しみながら、照明を味方につけて、ライフスタイルやその空間で過ごす人たちに寄り添った居心地の良い空間づくりの参考にしてみてください。

About me

髙山 明香
La it -Lighting Design Office- 代表
建築設計事務所、メーカー、照明代理店と勤務した後、2020年La it -Lighting Design Office-を設立。
照明デザイナーとして、照明計画を中心に空間デザインを手掛ける。