光のコーディネート

2024年7月11日

照明器具の種類や取り付け方法、明るさや光の色(色温度)の効果など、これまでお伝えしてきましたが、照明器具や光をどのように配置するかも大事なポイントです。
今回は今までお伝えしてきたことを基に、その空間に合った光のコーディネート方法をご紹介いたします。

「一室一灯照明方式」

日本の住宅は、昔から1つの部屋に1つの照明器具を取り付ける「一室一灯照明方式」が取り入れられてきました。
これは、部屋全体を照らすための照明器具を、部屋の中央に配置したスタイルです。
部屋を満遍なく照らし、効率的に必要な明るさを得られる反面、様々な生活行為に対して光環境を変えられず、暗くて良い状況においても明るいまま変えられないことから、エネルギーの浪費につながると考えられてきました。
しかし、最近では、一室一灯でも明るさの調整、光色の変更、光の出る方向などを変えられる照明器具も出てきたことから、使用用途が限られている寝室やレイアウトや生活スタイルの変化に柔軟に対応させるため子供部屋などに今でも積極的に取り入れられる方がいらっしゃいます。

「多灯分散照明方式」

1つの部屋に複数の照明器具を配置する一室多灯照明方式に省エネルギーの考え方を加えたのが「多灯分散照明方式」で、光環境の向上と省エネルギーを両立することのできる照明方式です。
多灯分散照明方式は、消費電力の小さい照明器具を部屋の中に分散配置させるので、部分的に明るさを減らすことができ、生活行動によって光環境を変えられるという特長があります。
また、部屋の大きさに応じて消費電力を制限して照明器具を配置することで、運用時の消費電力の削減が得られ省エネルギー性も確保されています。

暮らしを豊かにするための光環境

・フォーカル・アンビエント照明

生活行為に必要な明るさの確保と、空間の雰囲気をつくることの両立を目指した照明計画を行う際に考慮すべき住宅照明の考え方の事を「フォーカル・アンビエント照明」といいます。
「フォーカル照明(局部照明)」は、居住者が物を見ようとして見る部分の照明で、読書や書き物などその視対象に必要なテーブル面などを照らす「ファンクショナル照明」と、絵画など装飾を引き立たせ、空間のアクセントをつくる「アイストップ照明」に分けられ、空間全体の雰囲気をつくるための「アンビエント照明(全般照明)」とをバランスよく組み合わせることで、上質な光環境を作り出すことが可能です。

陰影がありメリハリのある空間を好まれる方も増えてきていますが、局部照明だけを使って照明計画を行うと、空間全体の明るさが不均一になり、目が疲れやすくなったり、歩行などに必要な明るさが得られないなど健康、安全面への配慮が欠けてくるので、全般照明を併用し、明暗がつきすぎないようにすることが大切です。
照度計算など明るさを数値化される方は、局部照明の照度の1/10以上を目安に全般照明を併用されるとよいです。

・適所適光・適時適照

上に挙げたフォーカル・アンビエント照明を含む必要なところに必要なあかりを、という意味の「適所適光」、その時々のシーンに合わせて、必要なあかりだけを必要な明るさで、という意味の「適時適照」という言葉があります。
作業や生活行為、シーンに合わせて点灯を切り替えたり、明るさを調整したりすることで、生活に寄り添ったより快適な光環境を実現することができます。

・光を分散させる

用途や目的に合った照明の配置と明るさの設定はもちろん、目で見る光の広がりや空間の美しさなどの意匠性も合わせて大事にしたいところです。
照明器具や間接照明を配置する際には、一カ所にかためずに分散させることで陰影が生まれ、立体感が演出できます。
逆に、光が一カ所に集中して配置してしまうと、部分的に明るくなりすぎたり、主張が強くなりすぎてしまうので、取り付ける高さに高低差をつけたり、空間を平面的に見たときのバランスなどを考えて配置してみると視線を分散させることができ、空間全体の広がりをより演出することができます。

・環境、年齢と明るさの関係

日本人は、海外諸国に比べ明るい空間を好みます。
気候や風土の違いだけでなく、瞳の色の濃い日本人の目は、光を通しにくく、眩しく感じづらいことも明るい中で視認性を保てる理由の一つだと思われます。
多灯分散は、欧米では昔から採用されている照明計画の考え方ですが、やはり日本人が好む明るさの多灯分散とは異なります。
頭の中にある理想の照明配置と明るさのイメージと実際に自身が生活するのに必要な明るさが同じなのか、違うのであればどのくらい違うのかを知る事も照明計画では大切な事です。

また、人間は加齢が進み、高年齢になるほど視力が低下し、高齢者は20歳代の人よりも2~3倍明るさを必要としていると言われています。
若くしてお住まいをご購入される方や陰影の効いたメリハリのある空間を好まれる方は、全般照明を明るめにし、調光機能をつけておく、キラメキ感のある照明器具は電球取付タイプで取り入れ、眩しいと感じるようになったらホワイト球やフロスト球に取り替えるなど、今を大切にしながら変化していくことへの対策もしていけると、快適な光環境を長く楽しんでいただけます。

 

生活のシーンごと、季節や天候、年齢、その時々に合わせた照明の組み合わせや明るさを考え、いろいろなあかりの変化を楽しむことで、日々の暮らしを豊かに彩ることができます。
インテリアだけはなく、光のコーディネートも楽しんでいただける方々が増えていくと嬉しいです。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
私たちと照明を楽しみながら、照明を味方につけて、ライフスタイルやその空間で過ごす人たちに寄り添った居心地の良い空間づくりの参考にしてみてください。

About me

髙山 明香
La it -Lighting Design Office- 代表
建築設計事務所、メーカー、照明代理店と勤務した後、2020年La it -Lighting Design Office-を設立。
照明デザイナーとして、照明計画を中心に空間デザインを手掛ける。